香る紅
Ⅸ
出てきてはみたけど、実際、どこに行こうかしら。
出てきた後のことは考えてなかったのよね・・・。
重い荷物を持って歩きまわるのがきつくて、小さい頃、緋凰と何度も行った公園に行くことにして、バスに飛び乗った。
天気が曇っているせいか、公園には人は皆無。
あのころとは変っていて、遊具もへっている。
吹く風は冷たくて、血が少なくて体温が低いせいか、真冬のように寒く感じた。
公園の端のベンチに行ってそこに腰をおろし、空を仰いだ。
これから、何をして生きていこう。
何のために生きていこう。
今までは緋凰がいたから、緋凰のために生きていたけど・・・。
私はもう、緋凰にとっては何にも必要がなくなったんだから、生きていく理由がなくなっちゃった。
考えながら視界にうつるのは、味気ない春の空。
くすんでいて、鳥もいない。
自分の心のなかみたいだ、なんて、思ってしまった。
必死で生きていく必要って、あるのかな。
緋凰の事を忘れて他の人と、なんて、私にはもう無理だろう。
緋凰のこと、好きすぎるから。
だから、これから生きていく中で、絶対、緋凰の事を考えるだろう。
でも、それは辛いこと。
緋凰が幸せになっているっていうことは、私じゃないパートナーを見つけて、私の知らない誰かと一緒に御門一族を引っ張り、その人の子を成しているということ。
緋凰が幸せになれば私も幸せだけど、でも。
耳に入ってくるのは、近くの藤棚の藤が、風に揺れる音。
子守歌みたいなそれに、瞼が重くなっていく。
・・・緋凰に頭をなでられるのには劣るな。
眠い。眠りたい。
ここでこのまま寝たら、どうなるかな。
そうだ、いっこ、賭けをしよう。
このまま寝て、次に目が覚めた時。
生きていたら、ちゃんと、その先も生きていこう。
波の音を聞きながら、目を閉じる。
パパママ、もうすぐ、会えるよ?
あ、でも・・・祈咲ちゃんは、怒るかな。
なんで勝手に死ぬんだ!って。
でも、大丈夫だよ、祈咲ちゃん、私、ずっと祈咲ちゃんのこと、守ってあげるから。
そうして、意識が沈んでいった。
*
出てきた後のことは考えてなかったのよね・・・。
重い荷物を持って歩きまわるのがきつくて、小さい頃、緋凰と何度も行った公園に行くことにして、バスに飛び乗った。
天気が曇っているせいか、公園には人は皆無。
あのころとは変っていて、遊具もへっている。
吹く風は冷たくて、血が少なくて体温が低いせいか、真冬のように寒く感じた。
公園の端のベンチに行ってそこに腰をおろし、空を仰いだ。
これから、何をして生きていこう。
何のために生きていこう。
今までは緋凰がいたから、緋凰のために生きていたけど・・・。
私はもう、緋凰にとっては何にも必要がなくなったんだから、生きていく理由がなくなっちゃった。
考えながら視界にうつるのは、味気ない春の空。
くすんでいて、鳥もいない。
自分の心のなかみたいだ、なんて、思ってしまった。
必死で生きていく必要って、あるのかな。
緋凰の事を忘れて他の人と、なんて、私にはもう無理だろう。
緋凰のこと、好きすぎるから。
だから、これから生きていく中で、絶対、緋凰の事を考えるだろう。
でも、それは辛いこと。
緋凰が幸せになっているっていうことは、私じゃないパートナーを見つけて、私の知らない誰かと一緒に御門一族を引っ張り、その人の子を成しているということ。
緋凰が幸せになれば私も幸せだけど、でも。
耳に入ってくるのは、近くの藤棚の藤が、風に揺れる音。
子守歌みたいなそれに、瞼が重くなっていく。
・・・緋凰に頭をなでられるのには劣るな。
眠い。眠りたい。
ここでこのまま寝たら、どうなるかな。
そうだ、いっこ、賭けをしよう。
このまま寝て、次に目が覚めた時。
生きていたら、ちゃんと、その先も生きていこう。
波の音を聞きながら、目を閉じる。
パパママ、もうすぐ、会えるよ?
あ、でも・・・祈咲ちゃんは、怒るかな。
なんで勝手に死ぬんだ!って。
でも、大丈夫だよ、祈咲ちゃん、私、ずっと祈咲ちゃんのこと、守ってあげるから。
そうして、意識が沈んでいった。
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