香る紅
織葉の気配を探ってみると、屋敷からそんなに離れていない場所だった。

車に乗って、心配そうな顔をした逆井に声をかける。

「逆井、ここから1キロ先の公園に向かってくれ。」

その俺の言葉に、逆井の表情が心配なものから、不思議そうなものに一変する。

「緋凰さま、織葉さまのいらっしゃるところ、わかったんですか?」

そうか、逆井は御門一族のことを知らない人間だった。

・・・面倒くさい・・・。

「ああ、携帯の電波をたどったからな」

それらしい嘘をついて逆井を黙らせて、公園に急がせる。

居場所がわかってるんだから、そんなに焦る必要はないのは分かっていたけれど、なんだか嫌な予感がした。

嫌な予感がするようなことをめったに俺は起こさないから、こんな気持ちになるのは久しぶりだ。

対して距離もないし、そんなに時間もかからないはずなのに、全然つかない。

はぁ。

溜息をついて、何気なく、ただ安心だけを求めて、隣に寄りかかった。

「・・・!」

・・・はずが、あやうく、シートに倒れこむところだった。

そこでふ、と我に返る。

・・・隣に寄りかかるとか、何を考えてるんだ俺は。

俺の隣、それは織葉の特等席。

織葉にだけ、許された席。

・・・織葉を迎えに行こうとしてるんだから、今織葉が隣にいるわけ、ないのに。

そういえば、俺の隣に織葉が乗っていないって、変な気分だ。

さっき学校から帰ってくる時も、妙な違和感を感じたけれど、これだったのか。




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