香る紅
美詠子や秋野も出て行って、織葉と俺と、二人きりになったとき。

織葉の頬に、恐る恐る手を伸ばした。

これは、本当に織葉だよな。

息をしているのはわかるけど、動かないし、目を開けないし、しゃべらないし。

織葉を取り戻した感覚が薄かったから。

人形じゃないか、なんてバカげた心配を抱いたから。

織葉を起こさないように、優しく触れると、そこは暖かくて、そのぬくもりが、織葉だと感じれた。

こんなことすれば、笑って「なぁに?」とかって、返ってくるはずなのに。

俺が何かすれば、必ず反応を返してくれるのに。

「早く、起きろよ・・・。」

織葉はここにいるけれど、まだ、ちゃんとした意味で織葉を取り戻したわけじゃないから。

ちゃんと、話したい。

それにしても、織葉に冷たくされるのは、応えるな・・・。

そんな自分勝手な感想を抱いて、でも織葉の手を握ったまま、そこから動く気にはなれなくて。

秋野や美詠子に「休んでくださいぃぃー!」と懇願されるまで、そこから離れられなかった。



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