香る紅
体に入っていた力は抜けて、それを感じたのか、緋凰の腕にまた力が入って、動けなくなる。

「血を取りすぎたのは、わざとやったことだ・・・。」

「・・・え・・・?」

驚くことを言われたり、話が飛んだりして、覚醒して時間のたっていない頭ではうまくついていけない。

わざと?

わざとそんなことをするほど、それだけ、私がいやだったって、こと・・・?

暗い考えにとりつかれだしたときに緋凰から降ってきた言葉は、「織葉を独り占めしたかったんだ」。

予想外な理由を最初に話した緋凰は、普段とは比べ物にならないくらい饒舌に語りだした。

「昔の約束でも、織葉が隣にいてくれることが嬉しくてしょうがなかった。けど、この前みたいな馬鹿が織葉に勝手によってきやがって・・・!」

『この前みたいな馬鹿』のあたりで何かを思い出したのか、さらに腕に力が入る。

初めて、緋凰から束縛の言葉を聞いた。

昔の「約束」以来、緋凰が私を束縛するような言葉を言ったことはなくて。

他のことは全部、他人の意思が多かったから。

「隣にいさせて危ない目に合わせるくらいなら、家の奥に、大切にしまっておいた方がいいって、思った。織葉が隣にいないの、俺が我慢してる方がずっとマシだって」

ちゃんとした理由があったんだ。

『私』がいやなんじゃなくて、私に声をかけてくる『男の子』がいやだったんだ。

その理由に、胸がぽわっとあったかくなる。

・・・と同時に、なんだかおかしくなってきた。

変なの、どんなことがあったって、知らない男の子に声をかけられたって、知らない女の子にいじめられたって、具合が悪くなったって、緋凰の隣にいたいのに。

緋凰の隣以外、いるところはないのに。

独り占めも何も、私の中には、緋凰しかいないのに。

緋凰がいれば、何が起こっても、なんでも大丈夫なのに。

笑っていられるのに。

「緋凰、あのね・・・」

けど饒舌緋凰は、私にしゃべらせてはくれなかった。

「悪かった。許してくれ。織葉が許せないって言うんだったら、何度でも謝る。なんでもやる。なんでもする。」

「え、と・・・。」




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