千日紅が咲いている
 私がヤスを見ようと顔を向けるより早く、


「頑張れよ」


と聞こえた声と同時に、背中を押された。

 そして、私の目には来た道を戻ろうと踵を返したヤスの姿が映った。

 一歩前に踏み出した私が振り返ったとき、ヤスはまっすぐと校舎へ向っていた。

 赤いはちまきがなびいていた。


 今度こそ本当に、心が落っこちた。


 大輔が「好きだ」と言って、「付き合ってほしい」って言って、「受け取ってほしい」と差し出した白いはちまき。

 なんで?

 なんで。

 ポケットの中の桃色のはちまきがものすごく重いのはなぜだろう。

 泣きたいのはなんで。

 まっすぐ見てくれる大輔。

 なのに、震えてるその左手。

 勇気出してくれてるんだって。

 嬉しいと思ってもいいはずなのに。

 私は後悔していた。
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