時計仕掛けの宝石箱
日本某所。
何とも言えない生温い風が窓から侵入してきた。
だが、窓際でも風はあまり通らない上、入ってきても温い風が肌を舐めるのは御免である。
口うるさい蝉もようやく夏バテしてきたというにも関わらず、
しつこく居残る夏に、響也(オトヤ)はうんざりしながらノートに文字を降らせる。
現在五限目の数学。
髪の毛が少々後退ぎみの小さい男性教員が、
呪文を唱えながら公式を黒板に書き込んでいく。
中学から一段とレベルアップした内容に、
クラスメイトは皆一丸となってノートに食らいついている。
‥書いても覚えられなければ意味はないが。
取り敢えず書くだけ書いておけば、心境的には落ち着くのだろう。
そんな風に一人ごちて、響也は小さく溜め息をついた。
「溜め息なんかついて余裕だな、三鷹」