原は天高くに在り【短編】
 スサノヲはただ母に会いたかった。なぜだかわからないが、無性に会いたかった。
 イザナキがどれほどの想いで黄泉国までイザナミを追い掛け、またどれほどの想いでかの黄泉比良坂(ヨモツヒラサカ)ですっかり変わり果ててしまったイザナミを前にお互いを隔てる千曳岩を据えたのかなんて、スサノヲにはわからない。
 高天原に居着いた際、はじめてアマテラスにその話を聞いたのだ。


「そして姉上には無理矢理誓約を押し通し、好き放題暴れ散らして、それでも姉上は俺を庇ってくれた」



 潅漑(カンガイ)の溝を埋めれば「お酒に酔っていたのでしょう」と言い、田のあぜを壊しても「きっと土地が勿体ないと思ったのでしょうね」と言って、他の者達に渋々納得させては事態を収めてくれた。
 だから、たまにはスサノヲのしたことで喜んで欲しかった。



「どうしようもない俺だけど、どうにかして姉上に喜んで欲しかった。失敗して、結局俺は姉上を哀しませる事しか出来なくてな…高天原を出ていけと言った、姉上の涙がこの瞼の裏に今でも焼き付いてる……だから」


 哀しむ者を見捨てられないと、スサノヲは自嘲するように笑い、だから心配するなと結んだ。
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