原は天高くに在り【短編】

常闇と照らせ

 常闇(トコヤミ)じゃ――と、口を開いたのは知の神、思金(オモヒカネ)であった。


「この闇は夜闇にあらず」


 アマテラスが天岩戸に閉じこもった後訪れたこの闇は、アマテラス、スサノヲと共に産まれた夜の神、月読(ツクヨミ)のもたらすものとはまるで違っていた。

 新月の如く月はなく、星もない世界で、邪神達は騒ぎ立てはじめ、禍もそこかしこで沸き出しているのだ。


 天安河原(アマノヤスカワラ)に集まった神々は、アマテラスを天岩戸からいかにして出て来させるか、思案にくれていた。
 そこには当然、アマテラスの側近アメノウズメやスサノヲの兄貴分アマノタヂカラヲの姿もある。


 オモヒカネはその歳を経た翁の顔に影をおとし、厳粛に口を開く。


「…宴を――開くのじゃ」

「宴……ですか?」


 アメノウズメの問いに賢者は頷く。



「天岩戸の中のアマテラスに、自分よりも貴い神が来ていると思わせるのじゃ」


 そこで気になったアマテラスが天岩戸から少しでもその姿を見せた瞬間に岩戸から引っ張り出す、と言うのである。




「そうか!それなら…っ」

「いけるかもしれない!」


 神々は一斉に色めき立つ。


「そうと決まれば…直ちに宴の用意をしよう―…!」
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