原は天高くに在り【短編】
嗚呼泣く事勿れ
…………………………
ざわざわ、ざわざわと、喧騒が聞こえる。
馬の死骸を投げ付けたんだそうな……
即死ですって…
またあいつか……
機織り部屋へと集まって来た神々は、ひそひそと声を潜めて口々に言葉を交わす。大衆が遠巻きに眺める先は自身の数倍大きな身体を持つ怪力の神、天手力男(アマノタヂカラヲ)に羽交い締めにされ、なおも身を乗り出そうとする荒神の姿だった。
「貴様ァッッ!!よくもそんな口をぬけぬけと…っ姉上を愚弄するなど…ッ」
「スサノヲ…!」
「次あのような事言ってみろ!!またあのようなこと言おうものなら…」
「スサノヲッッ!!」
アマノタヂカラヲの恫喝に我に返ったスサノヲの目に、自分の肩にあったはずの馬の死骸と、その下で血溜まりをつくる機織り女の姿。
もう死んでる――抵抗しなくなったスサノヲに、アマノタヂカラヲが悲しげに言った。彼もまた、スサノヲとアマテラスの事を案じる一人だったのだ。
あまのじゃくで、悪さばかりする不出来の弟のようなスサノヲを、可愛がりながらも叱ってきたのは彼だった。
「タヂカラオ―……俺は―――」
呆然と、零すように出た言葉は群集のざわめきによって遮られる。