淋しがりやのルビー
彼の席は廊下側から2列目の一番後ろ。
たった2歩踏み出しただけで、もう手を伸ばせば届きそう。
『伸ばせば』じゃない。
実際に伸ばしていた。
その首筋に手が触れる――。
そのとき、寝ていた彼が身じろぎして、慌ててその手を握って引っ込めた。
まつげが動く。
頭と肩がもちあがる。
机に肘をついて、体を起こした彼――神藤くんは顔をこちらに向けた。
「あれ、雛野(ヒナノ)?」
眠そうなとろんとした目で、驚いているのか、いないのか、わからない。
「起こそうと思って近づいたら、勝手に起きたからびっくりした」
胸の前で手を握りあわせながら、ドキドキしてる心のうちを隠すように笑う。
「神藤くん、こんなとこで寝てたら、風邪ひくよ」
急ぎ足で窓に歩み寄って、閉めようとする。
細くなっていく窓の隙間から、風が舞う。
あたしの顎の下で切りそろえた髪の毛も道連れにしていく。