黒猫前奏曲
私はなんとなくそのベンチに座ってみた。
辺りは鬱蒼とし、虫の音ぐらいしか聞こえないくらい静かである。 私はその余韻に浸り目をつむり、心地よい風に髪を踊らせていた。まるで、自分が闇に溶けてしまったように感じる。あながちカメレオンになった気分である。

「さて、そろそろ帰ろうかな」

散歩も十分満足し、帰ろうと思いベンチを立とうとする。

すると、公園内に足音が響いてきた。それはぶれすに私のいるベンチに一直線に向かっていた。

顔は見えないが背格好からして、男のようだ。
逃げればいいのだが、面倒くさい私はベンチで男を見つめていた。いざとなれば逃げられるとも考えていたからだ。

しかし、私の目の前にいる男を私はよく知っていた。

「こんばんは。怪我もちゃんと手当てされたみたいね」

私は男に話しかける。男はそれで私が誰だかわかったみたいだ。

「ブラック…キャット…」

男はあのテノールの安定した音で呟く。

「そうよ。お久しぶりね」

私は優雅に微笑んでみせた。

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