黒猫前奏曲
「なんでここにいる?」

男は私の隣りに座ったかと思うと尋ねてきた。

「もう帰るところよ」

会話が成立していないのはわかっていたが、私は早く帰って寝たかったため、会話を打ち切りベンチから立ち上がる。

「1人なのか?」

変なことを聞いてくる人だと思った。

「どこからどう見てもお一人様よ。誰かいるように見える?」

そう悪態をつき一歩歩こうとする。刹那、左手を掴まれ阻まれた。

「家に帰って寝たいの」

そう仏頂面で手をつかんだ相手に言うが、離そうとしてくれない。自分の瞼が重くなるのがわかった私は、仕方がなく左手を引っ張るがその手はビクともしない。

「送っていく」

しばらくして男はそう言うと、立ち上がった。だが、左手は離してくれなかった。

「送ってもらう必要なんてない」

そう言うが、男は私の言葉を無視して歩き出す。
公園から出ようとした矢先、違う足音が聞こえてきた。

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