感覚のレベル【BL】
あんな一也は、僕は見たことナイから。
ごめん、と口にして、今度こそ玄関を目指して歩く。
「一也[かずや]っ!」
不意に名前を呼ばれて、思わず動きが止まる。
一也が僕の名前を呼ぶのは……かなり久しぶりだ。
「どうしたの?」
振り返りざまに、タックルみたいな抱きつき方をされて、よろめいて、危うく転んで頭を打ち付けるところだったけれど、なんとかセーフ。
壁に手を突っ張って、ぎりぎり体勢が保たれている。
「どうしたの?」
もう一度聞くと、少しだけ潤んだような眼差しで僕の唇を掠めた。
「絶対に、また来いよ」
「分かってるよ」
改めて「またね」と告げて、僕は一也の部屋を後にした。