いつでも逃げられる

男は私の座るソファの隣に腰を下ろす。

「僕はね、加奈子ちゃん。君に乱暴しようとか、身代金をせしめようとか、そんな理由でここに連れてきた訳じゃないんだ」

男の手が私の頭を撫で、髪に触れ、肩に触れる。

鳥肌が立つ。

怖気が走る。

嫌悪感に悲鳴を上げたくなる…！

「僕は加奈子ちゃんと一緒にいたいだけ…君の彼氏…真島勇作だったよね…あんなチャラチャラした奴のものにしておきたくない…僕だったらもっと大切にしてあげる…君を大切に愛でたい…それだけなんだ」

…何て嬉しい言葉だろう。

大切に愛でたいなんて、生まれて一度も言われた事なかった。

嬉しい。

こんなストーカーに言われなければ、蕩けるほど嬉しい言葉なのに！