いつでも逃げられる
もう声が続かない。

それ程に叫び倒し、私は息を荒げる。

…悲鳴に近い助けの声を上げた後、周囲を包んだのは…静寂。

いつの間にか雨は上がっていた。

ゾクリと背筋が凍りつくほどの静寂が、この建物全てを支配する。

そんな静けさの中で。

「気は済んだかい?」

狼狽する事もなく、男は冷静に言った。

「さ、晩御飯にしよう。お腹一杯になれば少しは落ち着く」

…鼻先にまで近づけられた、食べ物の匂い。

冷えたハンバーグの匂いだった。

冷たいハンバーグなんて普段は食べたいとも思わないけど、空腹には勝てなかった。

そして、この空間ではこの男に勝てない事もよくわかった。

…絶望と虚無感の中、私は小さく口を開き、ハンバーグを咀嚼した…。

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