いつでも逃げられる
男は実に丁寧に、私を扱った。

一口大にご飯やおかずを取り分け、私がよく噛んで飲み込んだのを見計らって、次の食べ物を箸で口元に近づけてくる。

時折、ペットボトルのお茶を口元に寄せ、喉を潤してくれる。

私は座って、男の差し出す食べ物を咀嚼するだけ。

まるで赤ん坊を育てる母親のような光景ではないだろうか。

或いは…そう、餌を与えられるペット。

家で飼育されている愛玩動物のような扱い。

首輪を付けられ、檻に入れられ、毎日決まった時間に餌を与えられ、可愛いね、癒されるねと誉められ、撫でられ、大事にされる。

私は動物同然の存在にされていた。

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