いつの日かきっとまた逢おう。その時まで,ほんのちょっとのあいだだけ…サヨナラ
そのことを皐樹さんに話すと,
やはり同じように唖然としていた。
『なんてことだ…』
『元気出してください皐樹さん,何か方法があるはずです』
『そう,だな…私が気を落としている場合ではないな』
慰めはしたものの,
俺はとても,何か方法があるとは
思えなかった。
現に目の前で,
李砂奈は死んだから。
今回更にきついのは,
衣緒李は俺との結婚を
覚えてない。
まだ勇人と付き合っていると
思いこんでいることだ。
1番傍にいてやりたいのに,
あいつが1番傍にいてほしいのは
俺じゃないんだ…
3年。
3年も夫婦としてやってきたのに。
一瞬で,衣緒李の心は
勇人の元に
帰ってしまった。
悔しい。
悔しい。
『弘樹くん,これからどうするね?まずは記憶が戻るように,努力してみるか』
『…いえ,自然に戻るのを待ちましょう』
『でも』
『いいんです,それで無理して病気の進行が速まりでもしたら大変ですから』
『自然には,戻らないかもしれないよ』
『それでもです』
『…君は,強いな』
違う。
強くなんかない。
ただ,今の俺に
衣緒李を笑顔に
することはできないから。
最後まで,衣緒李には
笑っていてほしい。
だから,今は
身を引くしかない。
勇人と一緒にいるのが
今の衣緒李の幸せだって
言うんなら,
それはイコール俺の幸せ。
だって夫婦だし。
『ただ,一つだけいいですか』
『なんだね』
『籍は,入れたままで構いませんか。まだ…別れる勇気はなくて』
『当たり前じゃないか。仮に衣緒李が思い出さなくても,君はずっとあの子の夫だ。いつかカミングアウトするといい』
『ありがとうございます』
困難な闘いの
始まりだった。