いつの日かきっとまた逢おう。その時まで,ほんのちょっとのあいだだけ…サヨナラ


それから勇人は、
今まで以上に衣緒李に尽くすようになった。


それとは逆に、俺はあまり
病室に入れなくなっていった。


ドアの前に立っているだけ。


そこで衣緒李たちの会話を聞いていた。


『勇人!いらっしゃい』

『おー体調は大丈夫?』

『うん、今は大丈夫かな。勇人は試合、どうだったの?』

『今日は勝った!俺2安打やってんで、越智さんもホームラン打ったしなぁ』

『そうなんだー!!最近検査やらでテレビ中継見てないんだよね…』

『まぁえぇやん。その分何でも試合のこと教えたるし!あ、林檎むくな』

『ありがと』



入れるわけ、ないだろう?
この会話のなかに。


衣緒李の楽しみを
壊すことになる。


いつもいつも、
俺は立ち尽くして涙するだけ。


情けない。


でもどうすることも
できなかった。


早く記憶が戻るように…
早く病気が治るように…


祈ることしか、できなかった。




その半面、

『もし、記憶が戻らないままその時がきてしまったら』

なんてことも、考えるようになっていた。


もし、最期まで
俺との過去を思い出さなければ…


『勇人の彼女』として
一生を終えたら…


俺は、どうしたらいい?


< 105 / 114 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop