いつの日かきっとまた逢おう。その時まで,ほんのちょっとのあいだだけ…サヨナラ


結局そこから9回まで、試合は動かなかった。
2−3のまま、最後の攻撃に突入した。


『打てなくてもいい。勝てなくてもいい。ただ後悔だけはしないように、思いっきりやってこい』


監督の言葉が温かい。


幸運にも、最後の回に俺の打席は回ってくる。
絶対に打つ。
俺は、根拠のない自信に溢れていた。


俺の前の打席になり、バットを握ってサークルに入る。


頼む、打ってくれ。
せめて、どんな形でもいいから出塁してくれ。


神にも縋る思いで祈った。


カウントは進み、ツースリー。
追い込まれた。


そうやって諦めかけたとき。
そいつはキレのあるカーブを、バランスを崩しながら、バットに当てた。


鋭い当たりは、レフト前まで運ばれていった。
ピッチャーも、多少は驚いたような表情をしている。


あれをあそこまで運ぶなんて。
俺も、目が覚めたような感覚だった。


(あとは、たのんだぞ)


セカンドまで駆け抜けたそいつの口が、確かにそう動いたのが見えた。


(まかせとけ)


そう答え、俺は打席に入った。


流れは確実に来ている。
絶対に打てる。打ってやる。


衣緒李のために。


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