いつの日かきっとまた逢おう。その時まで,ほんのちょっとのあいだだけ…サヨナラ


最後の攻撃。


俺の次の2人が続けざまに出塁し,1人がアウトになったもののワンアウト2,3塁。


一発逆転のチャンスだ。


バッターは8番中村。



カウントツースリー。


追い込んだピッチャーは気が緩んだのか,


ど真ん中の棒球…


勇人がそれを見逃すはずもなかった。



直後にバックスクリーンに大きく映し出された2つのアルファベット。



《 H R 》


観衆からは喜びの声があがる。


サヨナラ3ランだ。



右手の拳を高々と挙げたままダイヤモンドを回り終わった勇人を,皆で手荒くむかえた。



けど,そんな中で1人だけ


俺だけは,


素直に喜べなかった。




どうしてこいつなんだ…


どうしてよりによって
勇人なんだよ…


チームの勝利は,
何よりも喜ぶべき
ものなのに。


今日の俺には
そんな余裕はなかった。



悔しさを通りこして,
憎らしかった。



心の奥では,

勇人に勝てるわけないって
わかっていたから



だからこそ,



比べられるのは
怖かった――……







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