いつの日かきっとまた逢おう。その時まで,ほんのちょっとのあいだだけ…サヨナラ



『私と…妻の愛華は高校時代の同級生だったんだよ。彼女は入学式の新入生代表で挨拶をしたんだ,成績トップとして。
…一目惚れだった』


才色兼備…


まさにぴったりだと,思った。



『彼女は医者の娘でね。向こうの親も私との結婚に依存はなかった。事はスムーズに進み,すぐに子宝にも恵まれた。3人目が初めての女の子だとわかったときは,名前のことでよく揉めたものだった』


衣緒李と李砂奈のことだ…。


よく見ると,2人とも
愛華さんにそっくりだ。


『私は【衣緒李】,愛華は【李砂奈】。お互い譲らなくてね。双子の誕生の瞬間は感動したな。それで,私達は希望通りの名前をつけたんだ。でも,幸せだったのは…その頃までだった』


皐樹さんの表情が暗くなる。


『4人の父親になった私は,今まで以上に頑張っていかなければ,と思った。家族をしっかりと養えるだけの金を稼ぐことができれば,それが家族の幸せに繋がるとばかり思っていたんだ…』


そう話す皐樹さんの目には,うっすらと光るものがあった。


『仕事に打ち込みすぎた私は,愛華と李砂奈を失った。悲しいかな,その反面会社はこんな馬鹿みたいに大きくなって…。
結果,私は愛華の死,ましては李砂奈の死など知る術などなかった…』


『えっ?』


俺は思わず声をあげた。


『愛華さんは,亡くなられたんですか?』


『あぁ。交通事故でね。私が離婚などしなければ,愛華は死ななかったはずなんだ』


皐樹さんが改めて俺の方を見る。


『つまり…私は,衣緒李をほったらかしにしなければならないような仕事の人間に,衣緒李をやりたくはないんだよ』




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