いつの日かきっとまた逢おう。その時まで,ほんのちょっとのあいだだけ…サヨナラ
…何だって?
『長々と話しておいて申し訳ない。だが,わかってほしい…あの子には,愛華のようになってほしくはないんだよ』
頭がぐちゃぐちゃになる。
野球が仕事ってだけで拒否だと?
ありえない。
『じゃあ…どんな仕事ならいいんですか?衣緒李さんのためなら俺,野球辞めます』
俺は本気だった。
『私は野球が好きでね。君の活躍はテレビでよく見るが,君のように才能のある選手が辞めるなんてもったいないよ。仕事柄,衣緒李に近しい人間などいくらでもいる』
『それどういう意味ですか…?!』
『ここだけの話だが…衣緒李は,うちの庭師の息子にやろうと思っている』
庭師の息子…?
庭師の息子ってまさか…
『瀬戸悠希君のことですか』
『なんだ,悠希を知っていたのか。あの子は素直ないい子だし,衣緒李への好意も伺える。衣緒李にとっても,どこぞの骨かもわからんような輩と結婚するよりずっといいだろう。時期がくれば,芸能界から引退させてあの子をこの家に呼び戻す』
…違う。
皐樹さんは,
皐樹さんは
衣緒李の気持ち無視してる…
『俺は!!』
俺は思わず叫んでいた。
『絶対諦めませんから!!必ず,必ず幸せにします。衣緒李は,俺のことを愛してくれてる。彼女は…愛華さんとは違います』
皐樹さんの眉間がピクッと動いた。
『俺,また来ますね』
俺はそう言い残して,部屋を後にした。