いつの日かきっとまた逢おう。その時まで,ほんのちょっとのあいだだけ…サヨナラ
球場を出ると,俺はすぐにタクシーをつかまえて衣緒李たちのホテルに向かった。
衣緒李に電話すると,フロントにいてくれるらしい。
俺は皐樹さんがどんなテンションなのか気になって仕方がなく,運転手を急かした。
しばらくしてホテルに着き,フロントで衣緒李の姿を探す。
が,ちょっと見当たらない。
きょろきょろ歩き回りながらケータイを手に取ったとき,
トイレの方から衣緒李っぽい声が聞こえてきた。
女子トイレに入るわけにはいかないので,壁に寄りかかって待ってみた。
…どうやら,誰かと一緒らしい。
そんなつもりはなかったが,俺は聞き耳をたててみた。
『どうしても,別れてくれないんですか』
『うん。弘樹にフラれない限り,あたしは別れないよ』
『どうしてですか?!芸能人で大企業の娘とプロ野球選手,そんなの上手くいくわけないじゃないですか!!』
『…そんなの,あなたが決めることじゃないよ』
『あたしの意見じゃなく,一般論を言ってるんです。あたしなら,いつでも弘樹さんの傍にいてあげられる。あなたが忙しすぎるから,弘樹さんはあたしに揺れたんじゃないんですか?!』
『…そうだよ。あたしにもっと余裕があれば,弘樹に寂しい思いはさせなかった。弘樹の話を聞いてあげられてた。でも,それでも弘樹はあたしのとこに戻って来てくれた。あたしはこの先,弘樹を守る義務がある』
『何甘えたこと言ってるんですか??あなたは弘樹さんを傷つけた,それは消えない事実です。一度出来た傷をえぐることなど,たやすいんですよ』
『…もういいだろ。衣緒李も香苗ちゃんも出てこいよ』
聞いていられなくなり,俺は口を挟んだ。