伝えたい音
あの時、本当は健介だって不安を抱えて、この町を出たんだ。

そりゃあ、そうだよね。



健介の目はいつも希望と期待の光で満ち溢れていたけど、不安でたまらなかったはずだ。

ずっと慣れ親しんだ故郷を離れて、友達とも家族とも離れて、たった一人で自分を信じて、夢を追いかける。



いつから考えていたんだろう。

どうやって決断したんだろう。



よく考えたらあたしは、健介の事、何も分かってなかった。

心なし凛々しく見えた横顔が、頭から離れない。






頑張れ、とか、
好きだよ、とか。


何かないの?私。



たった四文字じゃない。




なんで言えないの?
なんで?




最低の意気地なし。



自分の頑固に本当に嫌気がさして、後悔ばかり繰り返した。




でもその健介に、今日、会えるんだ。


正直、怖い。

タクシーの中、私の胸はドキドキ鳴っていた。


まさにハートブレイク。



外はもう薄暗い。

空港まで、もう少し。



タクシーの運転手が窓の外をチラチラ見ている。

寒さを温めあって手をつなぐ恋人達が、幸せそうに歩いている。

街が白く染まる。

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