伝えたい音
空港に着くとタクシーを飛び降り、おつりももらわずに、人ごみをかき分けて進んだ。


健介、どこ?


会いたいよ。

早く話がしたい。



届いてるよ。

ちゃんと、きこえてるよ。




『優しいうさぎ』は、いつだったか健介が鼻歌で歌ってた曲だったんだね。







―――…



「今のよくない?ちょ、譜面!ペン!」


ペンのキャップを口に加えて、無我夢中で書き記していく。

健介のその真剣な目。

私はその姿を見るのが、本当はすごく好きだったんだ。




「タイトルは?」

「んー、内緒」



ああ私、思い出したよ、健介。


最初は鼻歌だったのに、たくさんの人達が加わって。

ギターが恋人なんて言ってた、健介みたいなのが集まって、それぞれが一音一音に想いを込めて。


大切に大切に作り上げたんだね。




健介が作った歌、素敵だね。かっこいいね。

いい人たちと出逢えて、本当によかったね。



頑張ってるんだね、健介。




今なら、素直に健介のこと応援したいって思えるよ。




その時、私の目に黒いギターケースが目に入った。

それには、私があげたウサギのキーホルダーがついてる。


それ、いつのよ?
もう汚れて真っ黒じゃん。



健介…。
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