短編集『手紙』
「おやおやこれはこれは。いつも情けない『ボク』じゃないですか」

自分の事を『俺』という『僕』……面倒だからアイツにしよう……そのアイツは僕に息が掛かる程近付いて嗤う。

その声は幸子には聞こえてないみたいだ。

「ははは、反論も出来ないだろうね。そんなになっちゃ」

『何? 僕がどうなったって?』

するとアイツは鏡を持って嬉しそうにやってくると言った。

「ほら、お前はもう死んでるんだから」

アイツが得意気に掲げる鏡に写っているのは、黒い縁取りがされた僕の遺影だった。

『ああっ!』

瞬きも身動きも出来なかったのは、僕が写真になってしまったからだったんだ。

「ううう〜ん……」

汗だくになって僕は目覚めた。

「はぁっ、はぁっ。なんて夢だ!」

時計を見遣るとまだ午前4時を少し回った所。アラームが鳴る迄2時間程有る。

「絶対あの手紙の所為だ。畜生、アイツめ!」

僕は怒りの矛先をどこへ向けたら良いのかさえ解らず、ただ1人悶々と朝を迎えていた。


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