短編集『手紙』
「おはよう。どうした? 今日はえらく暗いな」

同僚からも心配される程、僕は生気の無い顔で歩いていたようだ。

「そうかい? ちょっと夜更かしし過ぎたからかな」

「AVの見過ぎは身体にわるいぞ? 中村みたいになるなよ」

「ははっ、まさか」

とりとめもない会話を交わして僕らは部所に就いた。

中村はまだ20代だったが、生まれてこの方女の身体に触れた事もないという生粋の童貞不細工男だった。

毎日仕事が終わると真っ先にビデオ屋へ寄り、飯も喰うや喰わずでその行為に耽る。

一度奴の部屋に上がらせて貰った事があるが、それは噎せ返るような精液の臭いで、僕は10分と持たなかったんだ。

【中村なんて、猿と同じじゃないか】

結局奴はその性欲を抑え切れずに、近所のアパートに押し入って敢えなく御用。その時止めに入ったお婆さんを突き飛ばして、転んだお婆さんは打ち所が悪くて他界。

刑務所の中じゃAVも見れないだろうし、今頃は狂ってるか悶死してるに違いない。


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