短編集『手紙』
  ドドドン ドンッ

電気も消えている。留守のようだ。僕は諦めて自分の部屋に入ろうとした。

「ああっ、ちっとも開きやしない」

しかし今日はあいにくの小雨模様。空気が湿っている所為か、玄関のドアがびくともしない。

【何度も修理してくれとこっちは頼んでるんだ。壊れた所で僕の所為じゃない】

  メリメリッ バキン!

チカラ任せに引いたドアは、パラパラと木屑を落としながら開いた。

僕はそそくさと靴を蹴り飛ばし、ドアを引っ張り込むと電気のスイッチを入れた。

「ただいま」

当然そこには誰も居ない。部屋は出た時のままで僕を迎えた。

「そうだ。手紙が来ていたんだ」

封筒を慌ただしく指で裂き、例に依って愛想も何もない便箋に目を通す。


前略俺へ

さぁ、これからが本当の始まりだ。

お前は随分と困惑しただろう。

俺は未来のお前だ。

本当だったら俺自身が色々とお前に授けてやりたい所だが、新たに制定された『タイムトラベル法』に依って、過去は閲覧のみが可能となり、未来から過去へのアクセスは禁止になった。


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