短編集『手紙』
今はもう、たまにしか覗かなくなった郵便受け。

デリヘルやピザ屋のチラシに紛れて、あの見慣れた和紙の封筒が入っていた。

以前は開封するのが何よりも楽しみだったこの封筒。今はどうしてこんなに手が震えるのだろう。



やっとの事で取り出した便箋には例に依って美しい文字が……でも心なしか、哀しげに並んでいた。


前略 私の半身

 お手紙を頂いてからだいぶ間があいてしまい、申し訳有りません。

 貴方の事ですから、私の心中も察して下さる事と存じます。

 貴方は仰いました。「貴女がどんな容姿であろうと関係ない。小生は貴女の心に引かれたのです」と。

 私は運悪く、女性の事をアクセサリーやステイタスシンボルとしてしか見ない男性達と、多く付き合って参りました。

彼らに取っては私の内面等どうでも良かったのです。

私はそんな彼らに傷付けられ、心を踏み躙られました。

そして「もう一生恋などしない」と誓っていたのです。


 しかし貴方は違いました。

私の心を解きほぐし、温かい言葉で包んで下さいました。

「この方ならば、本当の私を愛して下さる。この方こそが私の半身だ」

 そう確信したからこそ、私は貴方にお逢いする事を決断したのです。


 ……しかし現実は違いましたね。

貴方も美醜に拘る普通の男性でした。

やはり私は一生恋などしてはいけなかったのです。

残りの人生は夢など見ず、貴方と恋した思い出と共に生きたいと存じます。

 今生では結ばれなかった半身同士ですが、来世ではきっと結ばれるものと信じております。

                  草々



はらはらと

花びらの舞う

初逢瀬

それを間に

嵌まらぬはまぐり


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