Plumbago


だけど男はうんともすんとも言わず、ただ私を愛おしそうに見つめたまま。


「失礼ですけど、お会いしたことありましたっけ?」


もしかしたらお客さん?
だけどこの男の顔に、見覚えはない。

おかしいな。
記憶力はいい筈なんだけど。


「あ、あの」


訳が分からないと言う感じに言った言葉は、未だ頬を撫で続けるこの男に届いているんだろうか。


…ていうか聞いてる?



「会いたかった」

「…ッ」



そう言っていきなり男が抱き寄せるから、不覚にもドキッとしてしまった。

仕事上こういうことは慣れている筈なのに、私もまだまだ、だ。


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