私にとって唯一の人
「桜?急がなくちゃ遅刻だよ?」

ほうけていた桜に、少し困ったふうに眉を寄せて、彼は尋ねる。

(キャー"彼"だって。健司君が私の彼氏だよ!?あの健司君が。信じられない!)

桜が一人、心の中で会話しているのを知ってか知らずか、健司は優しく微笑んだ。そして、桜の手をとり、繋いだ。
「桜、行くよ?」
繋がれた手にまた赤面する桜を、健司は愛おしそうに見て、ちょっと頬を染め、歩きだした。

2人が乗る電車のホームに着くまでは、ほんの数分のことである。だが、桜には長くも短くも感じていた。
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