大人の女と男の関係
1.声をかけてきた男

「香菜(カナ)さん、これどうします?」


見ると、千佳(チカ)ちゃんが『食器類』と書かれたダンボール箱を指差していた。


「ああ、食器棚は午後届く予定だから……
じゃあ、先にこっちをお願い」


私は洋服をクローゼットに片付ける手を止め、足元にあった『本など』と書かれた二つのダンボール箱を彼女の方に押しやった。


「了解!」


千佳ちゃんがガムテープをびりびりとはがし始めたのを見て、私はまたハンガーに手を伸ばした。


「本って、この二箱だけですか?」


私は手を動かしながら本棚の前の千佳ちゃんに顔だけ向けた。


「うん。
本ってすぐ増えるから、どうしても持ってきたかったのだけにして、あとは置いてきたの」


「ふうん。
島村さんも本よく読む方なんですか?」


別れたばかりの夫の名前に少しだけドキリとする。
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