大人の女と男の関係
「香菜さん、追いかけたら?」


千佳ちゃんは成哉が去った方を見ながら私に囁きかけてきた。


「でも、一人じゃなかったし……」


私が言うと、千佳ちゃんも「ああ、そっか……」と残念そうに答えた。


「どうしたんです?」


笑顔で問いかけてきた営業さんに固い笑みを返し、私は向きを変えた。


どうすることもできなかった。


たとえ誤解されたとしても、私は成哉に言い訳をする立場でもない。


成哉だって、私が誰と何をしようと関知する立場にないから、目が合っても何も言わなかったのだろう。


見捨てられたような気分になった。


それでも、私にはどうすることもできなかった。

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