恋愛物語。
「成宮、成宮圭吾!」
不意に名前を呼ばれ、明らかに怪訝そうな顔をして振り向いた。
視線の先には偉そうに腕をくんでつっ立っているクラスメイト、金谷彰の姿。
「...なんだよ。」
「社会のレポート見せてくれないかな〜?」
「たまには自分でやってこいよ!」
渋りながらノートを差し出した。
「サーンキュ!」
彰は明るく言って俺の手から奪うようにノートを取り、鞄の中にグシャっとしまった。
用件だけ済まして去っていくその背中に、大切に扱えよと言葉をぶつけたが、返事は返ってこなかった。
「彰の奴...。」
机に突っ伏してブツブツと文句を言ったが、既に十分しわがよっていたので人のことをとやかく言えたものではない。
教科書がぎっしりと詰まった机にはピカソに近い落書きがされていて、大雑把で適当な性格を表している。
教科書を持って帰るのは、学年が終了し、進級する時だと勝手に決めていた俺は、鞄に雑誌やマンガ、お菓子を詰め込んだ。
入りきらないものを全て後ろのロッカーに投げ込みむと、空洞だった洞窟はあっという間に塞がった。
俺は汚れた鞄から視線を外して回りを見渡し、深い溜め息をついた。
これでやっと退屈な長い一日に終止符を打つことができる。
そう思って漏らした安堵の吐息であった。