ことばにできない
その夜遅く、店長が私の部屋に来た。

「昼間は驚かせて悪かったな。でも、俺は本気だから」

そんな店長の言葉を聞きながら私は、寝るばかりになっている布団をチラリと横目で見て、思った。


─ 本気なら、ここで私を抱いてくれるでしょう?


それほどまでに私は照哉さんが好きだった。
それなのに私たちの関係は、ずっと店長と店員のままだった。

だから私はずっとエミちゃんに嫉妬していた。


そんな私を、照哉さんは正面からじっと見つめた。
それから手を伸ばして、私の頬をさっと撫でると、軽くキスをした。

          そして

「おやすみ」と言ってでていこうとする。


私はたまらず、照哉さんの背中にぶつけてしまった。

「店長にはエミちゃんがいるじゃないですか」

照哉さんは振り向くと、いつものセリフを言った。


「笑子は妹だ」



もう一度「おやすみ」と言って、今度こそ照哉さんは自分の部屋へ戻った。


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