ことばにできない
あの人には巡り会えないまま、私は出産の日を迎えた。
生まれたのは、元気な女の子だった。
 
出産の翌日、面会に来た夫を玄関まで見送って、エレベーターに乗った。
ボタンを間違えて押してしまったらしい。
開いたドアの外に出たら、全然知らないフロアだった。
目の前に個室がいくつか並んでいる。

VIP フロアかしら。

物珍しさで、私は静まりかえった廊下に出て、個室の名札を読んでいった。

そして、見つけた。

あの人の名前…

< 22 / 177 >

この作品をシェア

pagetop