ことばにできない
男は元々、母が働く飲み屋の客だった。

私が中学に入った頃、母が初めてソイツを家に連れてきた。
その頃ソイツは、派遣で建築の仕事をしていると言っていた。

最初はひと月に一度くらいだった。
その頃は毎回、
「すまないね、邪魔するね」
と私に言った。

そのうちに、二週間に一度になり、毎週になり、やがて、泊まるのがあたりまえになった。

私が中二になった頃、ソイツは家に居座るようになった。
もう、仕事はしていなかった。



私は最初からソイツが気に入らなかった。

ソイツを避けるために、嫌いな学校へ毎日行った。

私が学校へ行く時間に、ソイツと母は起きていたためしがなかった。

私が帰る時間にはたいがい、ソイツは家で焼酎を飲んでいた。

厚化粧の母が、横座りに寄り添っていた。

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