ことばにできない
男が居座る前から、母は厚化粧だった。

母は地肌よりもかなり明るい色のファンデーションを使っていた。
荒れた肌の上でそのファンデは浮いてしまい、母はいつも、小麦粉をふりかけたみたいな顔をしていた。

マスカラと真っ赤な口紅が、母のみすぼらしさを強調していた。

自分のみすぼらしさに気づかない母は、哀れだった。



男が来てからの母は、以前にも増してだらしなく、汚らしくなった。

汚らしい母が、パチンコと酒に明け暮れる男ともつれるように腕を組んで、まだ明るい通りを仕事場へ向かう。

堕落しきった後ろ姿が、情けなかった。

 
母とソイツを見るのが嫌で、私は、母が仕事に出てから家に帰るようになった。

母と男は、深夜か明け方に帰ってきた。

朝になると私は、二人が起きないうちに家を出た。
たまに、母の財布から千円札を何枚か抜き取った。

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