ことばにできない
甘いマスク。
洗練された振る舞い。
ソイツは日を置いて何度も私の前に現れた。
いつも都心のシティーホテルに部屋をとった。
私を丁寧に扱ってくれた。
私の警戒心はいつしか、すっかり緩んでしまった。
彼のマンションは、倒錯した趣味の世界だった。
膨大な量のマニアックなコミックと、コスチューム。
彼は毎日、その日の気分のコミックを取り出し、そこにあるとおりの衣装を私にまとわせ、好きなだけ私を弄んだ。
少しでも思い通りにならないことがあると、気が狂ったように暴力を振るう。
そのための「お仕置き道具」もまた、幾種類も揃えてあった。
私は恐怖で縛られ、彼の言いなりになるしかなかった。
彼の行為は徐々にエスカレートする。
いずれ、想像を絶することが起きる。
彼のコレクションを見れば、それは明らかだ。
逃げよう。
逃げなければ、いずれ私は殺される。
彼は外出するときには、ドアを外からもロックした。
逃げるチャンスがあるとしたら、彼が帰宅するときだけ…
ある日、決心した。
彼に取り上げられたハンドバッグを探した。
彼は几帳面なので、すぐに見つかった。
中の現金と化粧品は手つかずだった。
彼はいつか、私にこれを返すつもりなのだろうか…。