Thank you for...
そうだよね。

付き合ってる訳じゃないし。

私の気持ちなんて分かるはずないか……。



さっきの笑顔を保ったまま携帯を閉じた。

右手に持ったタバコは、吸われる事なく長い灰を作っている。

それはまるで今の私の心のようで。

そしてそれは、吹き付けた風によってバラバラに飛ばされていった。


「今の――彼氏?」


後ろからかけられた声に驚いて振り向くと、そこには電柱に体をあずけて立つ翔の姿があった。


「いや…友達」

「ふーん。彼氏いねーの?」

「いないよ、そんなの」

「そんなのって、酷い言い方だねー」

体をくの字にして翔が笑う。

「リョウちゃん、可愛いから彼氏いると思ったよ」

彼氏…ね。

私の事、ちゃんと見てくれる人じゃなきゃ嫌なの。

上辺だけのスキって言葉は必要ないの。

たくさんの人と信じて付き合って、ダメだコイツって冷たく振って。

そんな自己中な人間だから。

男にすぐ期待してしまうから。

だから―――。

「いらないかな、彼氏なんて」

心とは裏腹なセリフで今日も心を隠してしまう。
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