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隠れ家

実習棟の5階廊下のつきあたり。

小さなベランダに、ベンチと背の高い灰皿が置いてある。

座ると外から見えなくなるその場所は、私のお気に入りだった。

偶然、エレベーターで降りる階を間違った事で見つけた場所。

方向音痴も役に立つ事もあるんだね。

ここはほとんど使われてないフロアなのか、人通りが全くなかった。

昼間でなければ、不気味かも知れない。


ベンチは座る部分のプラスチックが日に焼けて白く粉をふいている。

遠慮がちに腰を下ろすと、錆付いたパイプの足が迷惑そうにギギッと鳴いた。

取り出したタバコに火を付け、空を見上げながらタメ息と一緒に煙を吐き出す。

マニュアルでもあるかのような、いつもと同じ行動。

一日の疲れを私は毎日ここで癒していた。

空は心とは違った抜けるような青で。

薄く広がった白い雲が、ゆっくりと流れている。



はぁ……。


思わず口から漏れた声。

一体私は何がしたいんだろう。

この大学で、何の出会いを期待してるんだろう。

私は答えが見つからないまま再びため息を付いた。



「最近、元気ないじゃーん」


突然、頭の上からした声に一瞬体を固まらせ、恐る恐る顔を向ける。

鳩が豆鉄砲を喰らった顔、というのだろうか。

たぶん私はそんな顔をしてたと思う。

なぜここに翔がいるのか、とかじゃなく、ただ単純に目の前に翔が立っている事に驚いて返す言葉を失っていた。


「かくれんぼやってんのー?」


翔はからかう様な口調で言って、私の横の開いたスペースに無理矢理座った。

「んな訳ねーか」そう言って、ポケットから取り出したタバコに火を付ける。

ソフトケースに入っていた為か、タバコは折れてないのが不思議なくらいクシャクシャになっていた。

口元から伸びた不自然な位に曲がったヨレヨレのタバコは、昔見たルパン三世の次元大介を思い出させる。

それが妙に滑稽に映って、私は思わずプッと吹き出してしまった。
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