Thank you for...
「そ。俺、車ないからなかなか行けなくて。帰り、時間あるなら頼んでいい?」

まるで、おもちゃ屋へ行きたがる子供のようなキラキラした笑顔で翔が言う。

その気迫に押されるように、俊は「あぁ…いいっすよ」と答えた。


助かった―――。

翔が話しかけてこなかったら、2人で一緒に帰る羽目になってたかも知れない。

多分、あの雰囲気じゃキッパリ断ることなんてできなかったと思うから。

俊にバレない様に、そっと胸を撫で下ろした私に翔が言った。

「リョウも一緒に行こー」



断るなんて出来なかった。

心が「一緒にいたい」と騒いだから。

私は、実習棟のベランダで話したあの日から、翔のことを「特別」だと思い始めていた。

近づく事で心を見透かされてしまう不安を持ちながらも、それでも近くにいたいと願い始めていた。

それが結果として自分を苦しめる事になると知らずに―――。
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