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帰りの車内は、行きよりも賑やかだった。

さっき買ったばかりのサーフィンのDVDや細々した雑貨からショップの甘い香りが漂う。

「やっぱりロングだよなー」

「いや、ショートで技を見せる方がカッコイイですよ」

「俊もやりたくなったんじゃね?」

「そー、ですね」

前のシートでサーフィンの話に二人花を咲かせながらも、ミラーで後部座席の私をチェックしてる。

私はそれに気が付かない振りをして、流れる外の景色に目を向けていた。

「リョウはどう?」

ミラー越しに話しかけてきた俊に、私は興味なさそうな顔を向ける。

ここで「いいねー!」と賛同したら、二人で行こう!!と俊はボードを買うだろう。

ショップで値段を見たばかりだったのもあって、さすがに適当な返事をするのは気が咎められた。

「私、泳げないからパス」

これはウソじゃない。

自由が利かない海は特に怖い。

「えー、リョウ泳げないのぉ?」

大げさにオナカを抱えて叫ぶ翔。

ダセーなぁ、そう言うと、意地悪そうな顔をして笑った。

泳げなくて何が悪い。

片っぽの頬を膨らませ、不貞腐れた顔をすると「俺が教えてやるよ」と俊が言った。

「無理無理。時間のムダだって!!」

おかしくて仕方ないと言った表情で笑う翔を見て、何で言い切れるんですか、と私じゃなく俊がムッとした顔になる。

何でアンタが怒るんだ?

どうでもいいじゃん。

別に泳げるようになりたいとも思わないし。

それに泳ぎなら美里に習った方が確実だ。

高校の時に競泳の選手だったって言ってたしね。

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