Thank you for...
「俊、サーフィンやらないの?」

「え、何で?」

「店で、すごく楽しそうだったから」

それよりも水を得た魚のように生き生きした人間が、その横にいるんだけど。

そう付け加えようかと思ったけど言わない事にする。

「興味あるならチャレンジしてみなよ」

今までの態度と打って変わる私の表情。

それは不自然な程のテンションの上がりようだった。

何でかって?

それは、さっき見たボードの値段の事も泳げなくて笑われた事も忘れるくらい、自分の欲望を叶えるための手段を思いついたから。

さっき肌に感じた爽やかな風とは似ても似つかない、自己中な私の悪知恵。


俊は私の言葉に、少し困った顔をした。

サーフィンに興味のない私を繋ぎとめるには無駄な趣味とでも思ったのだろうか?

ミラー越しに俊の迷いが伝わってくる。

「いいじゃん、一緒にやろー」

翔の楽しげな声が車内に響く。

「他の友達も誘ってさ、楽しいよきっと。私は荷物番でいいから連れてって!」

みんなで楽しもうよ。

そう受け取ってくれたなら作戦成功。

俊は「私も連れてって」という言葉を再度確認すると、二つ返事で「やる」と言った。


純粋というか―――

単純な男。

私はこの提案で、

『翔のサーフィンへ行く車の確保』と

『翔と一緒にいれる時間』

の両方を難なく手に入れた。

私は、自分に好意を寄せる男の気持ちを利用したのだ。

ホント、いつか刺されてもおかしくない…かもね。
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