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初めて見る翔の住むアパート。

美里の住むマンションとは雲泥の差…と言ったら失礼かな。

オシャレな美里のマンションとは違い、学生専用の雰囲気を持ったアパート。

そんな事を考えながら、外の壁に沿って付けられた階段を一段一段踏みしめるように上がった。

男の人の部屋へ行く、と言っても荷物を届けるだけなんだけど、意外と緊張するもんだね。

部屋の前に付く頃には、正確な拍動が出来てないんじゃないかって位、心臓が乱れ打っていた。

翔によって開けられたドア。

その手前で足が止まる。

「サンキュー」

扉が閉まらないよう、右足でドアの下を押さえ、翔が手を差し出す。

「ホント、人使い荒すぎ」

「重くなかっただろ?」

「重くはないけど…」

持ってきてなんて言われたら、何かあるのかななんて変に期待するじゃん

と心の中で呟いた。

それがバレないよう、俯きがちに一歩翔に近付いて「はい」と袋を差し出す。

このままいたら、心臓が破裂する。

早く下に下りなくちゃ。

でも…そっか。

結局、俊と二人になってしまう。

仕方ない事なんだけど…。

万が一、告白されたら…

そのときは……

どうしたらいい?





あれから、いつもと変わりなく接している翔。

実習棟で私に言った事なんて、翔にとっては記憶にも残らない位の事だったんだよね。

毎日の流れの中の、他愛もない1コマ。

だから、翔に頼るのはいけない。

彼氏じゃないんだし。

私はいつも一人で何とか切り抜けてきたじゃんね。

もしもの時は、いつもみたいにキッパリ俊に言えばいい。

あ…。

そしたらサーフィンも辞めるって言うだろう。

そうなれば翔の海へ行く足がなくなる。

あぁ……困った。

スキでもない男と、気になる男の為に付き合うのか私は?

そんな女だったの?

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