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「リョウ、これってリンスの後?」

バスルームから私を呼ぶ声。

洗いあがった洗濯物を、狭いベランダで干していた私は、手を止める事もなく「リンスの変わり」と短く答えた。

「ねぇ、量とか分んないんだけどー」

「適当でいいってば」

「ちょっと来てー」

「はぁぁぁあ?」

しつこい位に呼ばれ、バスルームの前へ。

子供じゃないんだから、使用方法位読みなさいよとドアの前から声をかける。

「意味ワカンネーもん」

もぉ…。

なんなんだ、この男は。

私は少しだけ空けたドアの隙間から手を差し出して「貸して」というように手の先をヒラヒラ動かした。

シャンプーの香りが湯気に混じって鼻先をかすめる。

あ、シャンプー、私と同じやつだ。

そんな事を考えていると、中から腕を勢い良く引っ張られ、バランスを崩した私はヘッドスライディングでもしたかのような可笑しな格好で中に引きずり込まれていった。

「何すんのよ!」

濡れた床のお湯でビショビショになった私は、カラカラ笑う翔を睨みつける。

何考えてんの?

イタズラにもほどがあるよ!!

「ねぇ、リョウ、やってくんね?」

座り込んだ私の前にバスタブの中から腕だけ出して、買ったばかりのトリートメントをニッコリと笑いながら差し出す。

この男は……。

ホント、何考えてるか分んないわ。

そう思ったら、バカバカしくなって笑えた。

「私、服濡れちゃうんだけど」

「もう濡れてるじゃん」

「いや、これ以上濡れたら乾かすの大変だし」

「じゃあ、脱げば?」

服を脱ぐことを、こんなに下心の微塵もないセリフで言われたのは生まれて初めてだ。

まるで私が女であることを忘れたような、サラリとした言い方だった。

服、脱げよ。

とか、

俺が脱がすから…

とか言われた事はあっても、脱げば?だなんて。



私は、そうだね、と言ってタンクトップとジーンズを脱ぎ捨てた。

不思議と恥ずかしさは沸いてこなかった。
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