Thank you for...
翔がよ、と、私の心を読んだかの様に美里は言った。

壊れたオモチャの様に固まって動かない私は、美里の言葉が理解できないでいた。

翔に?

カノジョがいた?

いや、いても変な話ではないんだけど…。

なんか、最近までいたような言い方じゃない?


「彼女…が、いたの?」

動揺というか、驚いた私からでたのは、そんなたどたどしい日本語で。

それに対して美里は、知らなかったの?と笑う。

私はただ目を見開いて頷くだけしかできず、話の先をせかす様に「それから?」と身を乗り出した。

「予備校の時より前から付き合ってる彼女が地元にいたのよ。こっちに来てからは遠距離になったんだけど…」

美里は私の視線から目をそらすようにタバコに火を付ける。

「昔、電話で告白されたーってリョウが私に言ったじゃない?その時は、本気で驚いたのよー」

だって、その電話が会った日、翔は彼女と会ってたんだもん、そう付け加える。

「…そう」

「ま、その日の事は誤解だったから良しとして、その後は急接近だったじゃない?だから彼女の事聞いてるのか心配になって」

「へぇ…」

曖昧な返事しか返せない。

だって…頭の中は、今までの事がグルグルと乱れた映像となって駆け巡っていたから。

遠距離の彼女がいて…今は私が彼女な訳で…。

「ちゃんと話をして付き合い出してるんなら私も何も言わないけど、心配なのよ、リョウが」

美里の言葉がうまく変換できない。

とりあえず落ち着こうとタバコに火を付けて煙を吐き出してみた。

白い煙が心の靄のように目の前に漂う。

< 54 / 114 >

この作品をシェア

pagetop