Thank you for...
それは、突然の事だった。
冷静さを取り戻した私が、翔の部屋で課題のレポートを書いていた時だった。
アパートの階段を勢いよく駆け上がる足音。
その急ぐ足音は翔の部屋の前で止まり、部屋にけたたましくチャイムの音が響き渡る。
「翔!いるなら開けろ!!大変だ!!」
ドアを激しく叩く音と叫び声。
ドアを通して、その声の持ち主が焦っていることは私にも分った。
慌てて立ち上がった翔が玄関の扉をあけると、翔の友達が息を切らして部屋に転がり込んできた。
「何があったんだよ」
友達の異常なまでの姿に、翔が声を荒げる。
「俊が…ケンカに巻き込まれて…ヤバイ」
俊が!?
私も思わず立ち上がる。
ケンカって…。
心臓の鼓動が早くなるのを感じていた。
「何で携帯の電源切ってんだよ」
何度もかけたんだぞ、と短髪の頭をかきむしりながらその人は言う。
「そんなの今はどうでもいいだろ!それより俊は!」
心配で速さを増していた鼓動が、一瞬動くのをやめた。
携帯の電源…切ってたって?
やっぱり…。
俊の事を心配しながら、心の隅では冷静に言葉を聞き取ってる自分に驚く。
「そこの、マッシュの店の裏にまだいると…」
「俺が行く」
友達の言葉にかぶせるように、翔が声を上げた。
「わ、私も行く!!」
俊も心配だった。
でも、それ以上に、ケンカに加わって怪我をしてしまうんじゃないかと翔の事が心配だった。
今にも駆け出しそうな翔の肩を掴んで私が叫ぶと、翔はゆっくり振り返って言った。
「すぐ帰ってくるから。あったかいスープでも作ってて。白菜入りね」
それは、近くのコンビにでも行くかの様な落ち着いた口調だった。
「そんな…私だって…心配だよ…」
すがる様に翔にかけた言葉に、短髪の友達が「女は来ない方がいい」と目を伏せて答えた。