Thank you for...
ゆっくりと閉まるドア。

忙しく走り出すバイクの排気音。

一人部屋に残された私は、呆然と立ち尽くして、そして力が抜けたようにその場に座り込んでしまった。

どうしよう…。

翔が怪我したら…。

もし…死んじゃうようなケンカだったら…どうしよう…。

「ひとりに…しないでっ…」

不安の渦に飲み込まれそうな私が呟いた言葉は、テレビから流れる笑い声にかき消された。

嫌だ…。

翔に何かあったら…生きて行けない。

自分がこんなに翔に依存してるなんて思いもしなかった。

私が存在するのに、私が私でいるために…翔は必要な人なんだ。

だから神様…無事に帰らせてください…。





翔からの連絡を待つ間、スープなんて作れるはずなかった。

ただただ、玄関の扉と握り締めた携帯を交互に見つめる。

10分…15分…

胸の奥が重たい。

心臓の鼓動は早いまま、時間だけが過ぎていった。

RRRRR……

「もしもし!!」

手元の携帯が震え、慌てて通話ボタンを押す。

「もしもしぃ、俺だけど。もう大丈夫だから」

のん気な翔の声が耳に伝わる。

「大丈夫って…怪我は?」

「俊が殴られて顔腫らしてるけど大丈夫だろ。冷やせば何とかなる」

「病院は…?」

「そんな大袈裟じゃなくて大丈夫なんだって」

受話器の向こうの笑い声。

なんだ、こんなに心配してたのに。

でも…二人とも無事で良かった。

「で、俊を家まで送ってから戻るから遅くなる」

「…わかった」

「スープ、よろしく」

そう言って、一方的に電話は切れた。

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