Thank you for...
「ふぅ――」

安堵の溜め息が口から漏れた。

さぁ、スープでも作るか。

手元の携帯を閉じ、気合を入れて立ち上がる。

今日は、白菜とベーコンのスープにしよう。

コンソメ味がいいかな。

友達と彼氏の無事を安心した私は鼻歌まじりで取り掛かる。

さっきまでの不安は、嘘の様にどこかへ消え去ってしまっていた。



野菜スープというのは、実に簡単で。

材料を鍋に入れて火をつけるだけでいいんだもんね。

私はすぐに手持ち無沙汰になってしまった。

書きかけだったレポートをカバンに放り込むと、一人の空間がやけに広く感じた。

部屋…片付けておくか。

相変わらず脱ぎっぱなしの洋服が散乱したクローゼットの周りの服を、一つ一つ拾い上げ、洗うものとハンガーにかけるものに仕分けしていく。

半開きのクローゼットからは、中もグチャグチャなのは容易に想像できた。

だって、セーターが落ちてきて挟まってるんだもん。

「はぁ…」

ダメだなぁ、と苦笑いしながらクローゼットを開け放つ。

足元に挟まっていたセーターを拾い上げようとしゃがんだ時、収納ボックスに隠れるように立てられたノートが目に入った。

見るつもりなんてなかった。

彼氏の部屋を詮索するような事はしたくなかったから。

でも、気が付いたら、手にそのノートをしっかり握りしめていた。

それは、少し使いこんだ感じの大学ノートだった。

大学の講義のノートだろうか…。

でも、そんなものをクローゼットに入れる?

何気なしに初めのページを開いてみた。

そこには、翔の雑な文字は一つもなくて――。

華奢な字で綴られた文章が日付を打って並んでいた。
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